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本)コンビニ人間__村田沙耶香__2016

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

 

 社会との接点はコンビニのバイトのみ、という状態でずっと生きてきた独身女性の話。そのまま30代後半に突入した彼女は周囲の人間達から恋愛や就職の経験がないことを責め立てられる。言うなれば、普通の人間達からの同調圧力がこの本の主題だ。

 

 でも良く分からないのだが、この主人公が周りから言われているようなこと、つまり「男は働いて家族を養って当たり前、女は結婚して子供を持つのが当たり前。それに当てはまらない人間は欠陥品」という同調圧力は今もなお現代人に(わざわざ小説のテーマにすべきほどに強く)かかっているのか?? かくいう僕も独身だけど、そんな圧力は全く感じない(鈍いだけかもしれないが)。というか逆に、今は日本人でも「結婚なんてしたくない」と堂々と発言する人も出てきたし、生き方の多様性を社会が認知し始めているように感じるのだけれど。というわけで、主人公が周りから責め立てられる部分の描写は正直少し時代錯誤の印象を受けた。

 

 一方、中村文則のあとがきで面白かったのが、現在は文芸業界でも最後に赤ちゃんが生まれて丸く収まるパターンの物語が量産されているという話。(彼はそのような結末を皮肉を込めて”ベビーエンド”と呼んでいるそうだ。うまい。)時代が変わったとはいえ未だ多くの人が、結婚して子供が生まれてこそ感動的な人生、という思い込みを持っているのかもしれない。そのことを口に出す、出さないの差はあっても。

 

 この本がベストセラーになったということは、主人公と同じような生きづらさを抱えている人が日本に大勢いるということなんだろうか。世界中で翻訳出版されているらしいけれど、個人主義が強い国では理解されないのではないかと思う。

 

※あ、この小説自体は大変読みやすい文章で書かれており、随所に冴えたセリフ・心情描写があり、飽きずに最後まで楽しめました