脱力系ぷかぷかドイツ日記

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本)春のこわいもの__川上未映子__2021

 川上未映子の新作短編集。6つの短編全て、感染症が世界に蔓延している状況下での話です。一番好きだったのは『娘について』かなー。コロナ禍で1人家で仕事をしている小説家の元に、遠い昔の親友から電話がかかってくる、という話。若き日の青春のリアルが(ものすごい痛みと共に)胸に迫ってくる素晴らしい作品です。
 
 『春のこわいもの』はオーディオブックサービスの「Amazon Audible」で先行出版され、小説もその事を前提に書かれたものらしいです。文芸業界も変わってきてますね。というか知らなかったけど、オーディオブックって(特に海外で)既に結構普及してるらしいですねぇ。
 
 というわけで僕は今回初めて小説を”聴く”という体験をしたわけだけれど、特に抵抗は感じませんでした。岸井ゆきのさんの朗読が上手で心地良かったです。
 
 でも、やっぱり紙の本と比べると一長一短という感じですかね。言葉の意味を漢字で把握できない分、一瞬理解が追い付かないということが何度かありました。”成功”だと思って聴いていたら”性交”だった、とか(笑) 
 オーディオブックばかりだと漢字が書けなくなりそうな気がしますね(もう十分なってますが)。辞書を引かないし、そもそもまず作家も難しい言葉を使えないはずですので。
 
 でも作業をしながら聴けるのはいい点ですね。あと、仕事で疲れていて普通なら本を読みたくないような時でさえ、部屋の電気を消して目を閉じて朗読を聴いているとやけに感動したり、なんてこともありました。
 
 『娘について』では主人公の小説家が、低迷する文芸業界の現状を嘆くシーンがあり、この辺りは著者が日々感じていることを代弁してるんですかねぇ(2019年の『夏物語』でも同じようなシーンがあったような。。)。今回ははっきりと”小説なんてもう誰も読まなくなった”みたいなことを言うシーンさえありました。
 
 良くも悪くもライフスタイルがどんどん変わっているのを感じます。オーディオブックが出版不況をどう変えていくのか、注目ですね。