1968年に冷戦下のチェコスロバキアで起こった民主化運動「プラハの春」を題材とした小説。恋愛小説ってことになってるけど、政治思想、宗教、哲学等が混ぜ合わさったかなり骨のある本です。映画化もされているらしいですね(観てませんが)
チェコスロバキア生まれの著者ミラン・クンデラ自身も民主化運動に積極的に関わった一人だそうです。結局プラハの春はソ連軍の武力行使により鎮圧され、反政府分子であるクンデラは人気作家であるにもかかわらず著作は自国では発禁処分となり、国籍も剝奪され、フランスに亡命せざるを得ませんでした(後にフランス国籍を取得)。
それでもクンデラは著作を通じて母国政府への批判を続けました。『存在の耐えられない軽さ』は亡命後の作品で、フランスから発表され世界的なベストセラーとなります(原作は母国語のチェコ語ではなくフランス語で書かれました)
冷戦時の東側(社会主義側)の生活って本当にひどかったんですねえ。。人々に言論の自由はなく、メディアは嘘ばかり流す。政府に同調しない教養人が次々とポストを追われ、政府が民間人の家に盗聴器をしかけるなんてことも。。。今となってはこの小説は歴史資料としても価値があります。
主人公の男性は、もともとはプラハで働いている優秀な外科医だったのですが、共産党を批判した文章を雑誌に寄稿したことがきっかけで転落し、最終的には田舎でトラックの運転手をするはめになります。
一方主人公と同じチェコスロバキアで生まれながら、母国を捨て西側(資本主義側)に亡命し、画家として成功する女性も登場します。彼女は若い頃から親や美術学校のみならず母国の政治思想・システム等あらゆるものに反発しながら生き、結果アメリカで自由な生活を手に入れます。でもその”軽さ”に耐えられないのですね。なんの悩みもない代わりに、反発する対象もないことが辛くてたまらないわけです。
外科医の重い人生と画家の軽い人生。結局どっちが良い人生だったのか、読み終わったあとにうーんと考え込んでしまうような深い小説です。