保坂和志が最近のインタビューで語った彼の作家生活についての話が面白かったので、ちょっと思ったことを書いてみます。
ベテラン作家となった彼にとって今や小説を書くことは二の次だということでした。では彼の第一の仕事は何かといったら猫の世話をすることだそうです。そして彼曰く「小説よりも猫のことを良く考えた方が、上手く小説が書ける」ということでした。面白いのは、別に彼の小説では常に猫が登場するという訳ではない点です。ちなみに、猫が家の外に出かけていってしまったら、それに代わる第一の仕事を必死で見つけてこなくてはならないそうです(笑)
ビートたけしも以前似たようなことを言っていました。私は彼の映画のファンなのですが、彼は映画とお笑いの他に趣味で絵も描いています。(個展も開いていて、見てみると結構面白い絵があります。)ある時単なる遊びのつもりだったのが、ー周りに褒められたりして、自分には才能があるのではないか?と思ったのでしょうー 絵を”本気で”描こうとしたことがあるそうです。ピカソを超えてやる、と気合を入れてキャンバスに向かった。すると急に何も描けなくなったという話です。
芸術家が芸術家らしくあろうとすること、言い換えれば深淵で崇高な仕事をしようと試みることは、例えるなら太陽がどんな姿形なのかを肉眼で直接見ようとするようなものなのでしょう。そんなことをしても眩しすぎて見えないだけでなく、ずっと見つめていると目を傷めてしまいます。ビートたけしのところには若手芸人がたまにやってきて「弟子にしてください!死ぬ気で頑張ります!」とやるそうですが、彼曰くそんな奴は絶対売れないそうです(笑)適当にやるから面白いんじゃないか、なんでそんなこともわからんのか、ということらしい。この話を覚えておくと、めんどくさい仕事を”うっちゃって”しまいたいときに自己正当化するのにも役立ちます(笑)
適当ということで思い出すのが、一昨年の春ドイツのビザの申請で大阪に行った際、ついでに演芸場に遊びに行った時のことです。その日よしもとは既に行ったことがあるからということで松竹の寄席に入ったのですが、その回は芸人が5組くらいに対し客も5人くらいでした(笑) 2番目あたりに出てきた無名且つやる気のなさそうなピン芸人が語った話によると、平日の松竹演芸場では客が5人というのは普通とのことで、芸人は皆ネタ中に客の顔を覚えてしまうので、外を歩いていると芸人の方から客に「さきほどはどうも」と声をかけてくることがあるから注意してくださいということでした(笑) また、客が少ないとネタ中に芸人が客に話しかけることも多いのですが、外で偶然会った時「さっきのあなたの返し面白かったです」と芸人が客を評価することもあるという話でした(笑)
プライドもくそもない、このくらい適当にやっていけたら楽しいかもしれませんね(笑) 適当というのは想像以上に大事で、ある場合にはパワーを持つのです。その日演芸場で見たその他の良く作りこまれたネタなんて全部忘れてしまったのに、この話だけはずっと覚えてますから(笑)